18.ダイヤモンドヘッド4

登りはつらいけど、下りはあっという間なのが登山。
坂は下る方が楽なのもあるし、一回通って知っている道を進むと距離感がわかる、ということもある。

ということで、下りはおなかを空かしながら下山した。
スタート地点のクレーター真ん中まで戻ってくると、残り少ない小銭でホットドッグを買ってガブッと食べ尽くした。

空腹も満たしたし、さて帰るか、でもちょうどバスが行っちゃったみたいだ… と思っていたら、

「タクシーあと一人!!」

みたいな声をかけているオジサンがいた。

どうやらタクシーの同乗客を探しているらしい。
確か4$だったか、バスの値段を考えてもとてもいい取引だったので、ハーイと手を挙げて乗せてもらった。
ホテルを伝えると、+1$でいいという。

セダンより大型の車で(いまいち車種がわからない)、最後に空いていた助手席に乗り込むと、後ろに4人の白人グループが乗って待っていた。

タクシーの運ちゃんはキューバ人だそうで、いろいろと話しかけてきた。

「おまえどこから来た?」

「(神奈川って行ってもわからないだろうから)日本、東京だよ」

「トキオのどこだ?」

「川崎だ」

「カワサキはトキオじゃない、カナガワだろ。バイクで有名だ」

よく知ってるなあ、と感心してたら、他にも、

「おまえの英語は上手だな、どうしてだ?」

「学校で勉強した」

「いや、それだけじゃないだろ」

「…ああ、会社で使う機会があって。うちの会社知ってるか?」

「知ってるよ。有名だ」

なんて風に、いろいろ細かく突っ込まれた。

別に自分の英語がウマイと言いたいのではなくて(実際彼の英語が早くなると、途端にわからなくなった)、物怖じせずに話をしてたので、そう言われたんだと思う。
ハワイで運転手やっていれば、日本人のこともよくわかるようになるんだろうと思った。

そのうち、ごそごそダッシュボードからファイルを取り出して、これを見ろという。
見てみたら、A4サイズにプリントした写真がたくさんファイリングされている。

「こんな写真を撮ってるんだ」

と話始める。
おかしななタクシー運転手だ。

タイとかハワイとかの写真の中に、渋谷・原宿の写真もあるじゃないか。
そりゃ、日本のことをよく知ってるわけだ。

彼の写真は、何かを狙ったものが多かった。
人が歩いている形の絵が描かれている壁の前を、まったく同じサイズの人が歩いている写真や、海水浴場の岩場に隠れて、目まで覗かせている女の子数人を撮った写真など。
待つときは数時間待って、狙った状況を撮るらしい。
自分の写真について熱く語り続けていた。

おもしろかったので、それまで自分がハワイで撮ってきた写真のプレビューを見せてみた。
彼にはふつうに撮った風景写真はおもしろくないらしく、サクサク飛ばして見ていた。

「縦に伸びている木を撮るときは、縦の構図にした方がいいぞ」

「この階段の写真は、誰か通り過ぎるのを待った方がいい。そうだ、子供がいい」

みたいな指摘も受けた。

そのなかで、彼が「とてもいい」と言ってくれたのがこの写真だ。



あんまりそういう批評を受ける機会も少ないので、いい刺激になるものだ。

*****

ホテルについて、別れ際に彼の写真を撮らせてもらった。


「笑って、笑って!」と言っても、彼はいっこうに笑わない。
撮ったあと、彼はまじめな顔で

「人を撮るときは、無理に演出するもんじゃないんだ。その人の自然な表情を撮るべきだ」

と熱く語りだした。

あまり反論するのは好きでは無いのだが、逆に自分の思いを伝えないというのも悪いかもしれないと思い、

「これはアートとして撮っているんじゃない、自分の個人的な記憶として撮っているんだ」

と言った。

彼はそうか、と言ったような気がしたが、納得しているようではなかった。
でも、とりあえず自分の意見は伝わったような感じはした。

なんとも不思議な出会いだった。
日本にも行ったことのある、ハワイでタクシー運転手をしているキューバ人。

「一度キューバに行ってみたい」

と言うと、

「あそこはひどいところだ」

とひどく反論された。

握手をして別れたあとで、メールアドレスでももらっておけば良かったなと思った。

Post a Comment

Your email is never shared.